今回の記事は、職場で「個別的看護」について考える機会がありまして、患者さんにとっての看護って何なのよ!という漠然とした疑問にぶつかり、自分の今の思いをちょっぴり書いていこうと思います。
個別的看護って何だろう
「看護実践は患者のよりよい変化を目指して働きかける過程である」
看護学概論(医学書院)より
看護師が看護実践を行う目的は、患者に「より良い変化」をもたらすこととされています。
「よりよい変化」をもたらすために…
- 患者の現在の状態を見極める
- 看護介入の方法と介入による結果の予測を具体的にイメージする
- 具体的な介入方法について考える
- 対象者(患者や家族)の意向を尊重する
- 生活歴や生活背景を考慮し、その人にとって最も好ましい方法を選択する
つまり、援助内容の決定には、看護師の価値観や経験上の知恵のほかに、患者の意向や感じ方が重要なカギを握るということです。
患者と家族の意向をまずは確認すること
個別的看護は、「患者や家族の意向を聞くこと」と私は考えています。
とある男性患者さんのお話。
リハビリのスタッフから、「ポータブルトイレの練習をしていきたいんです!病棟でポータブルトイレを使用してもらえませんか?」とお願いがありました。
患者さんは脳梗塞を発症した方。
手の力はそこそこあるのですが足の力が入りにくく、移動の際に足をうまく前に運べないことがあります。
そこは患者さん本人も理解していて、「足がもつれるね。膝に力が入らないんだよね。」と話されていました。
リハビリでは平行棒歩行1往復もできるそうなんですが、病棟での動きを見るとポータブルトイレ使えるのかなぁ…と少し不安を感じるレベル。
でも、その日たまたま車椅子からベッドへの移動動作を見る機会がありまして、自分で柵を持って立ち上がり、しっかりとした動きでベッドに戻ることができていました。
本人の言うように、若干足がもつれ気味でしたが「ポータブルトイレ使えそう!!」という印象を持ちました。
しかーし、その日の病棟カンファレンスで…
しかも、トイレに行かせるようになったら昼も夜も区別がつかなくなるかもしれない。
夜に勝手に起き上がったりして転倒したり転落したら困るし。
おしっこに行きたい感覚もあるのかないのか分からないし。
とりあえず、おしっこ出そうになったらナースコールで教えてもらって、尿器で採るという形を取ろうよ。byプライマリーNS
プライマリーナースというのは、患者さんを入院から退院までを担当する看護師のことです。
日々の担当は様々な看護師が受け持ちますが、基本的にはプライマリーナースがその患者さんの看護計画やケアなどを考えて退院までお世話をします。
プライマリーナースもリハビリ担当者も患者さんや家族の意向は確認したのだろうか。
ここを確認しないと患者さんにとって意味のない介入になってしまうかもしれませんね。
ポータブルトイレは使用できないのか
プライマリーナースの考え方を元に考察してみます。
「ポータブルトイレは使えないのか否か」については、正直やってみなくちゃ分からない。
子供のトイレトレーニングと一緒で、失敗するのが怖いからオムツをずっと履かせておくなんてできませんよね。
ここで重要なのは、患者さんはポータブルトイレを積極的に使用したいと思っているのかどうかです。
夜に勝手に起き上がって転倒・転落するのか
これも、やってみないと分からない。
実際、プライマリーナースがこのように発言するのには訳があります。
入院当初この患者さんは柵を引っこ抜いて落としてみたり、勝手にベッドサイドに座ってみたりと不穏な行動が若干ありました。
現在はそのような行動はなく、意思疎通も問題なくできます。
理解力も十分です。
確かに、患者さんによっては「わたしはできる!」と思い込んで勝手に行動して転倒し骨折することも珍しくありません。
日中だけポータブルトイレを使用するという約束をしたとしても、患者さんが勝手に行ってしまう可能性もゼロではありません。
転倒・転落しないための対策としては…
- ベッド柵をきちんと設置しておく
- もし夜間にトイレに行きたくなったらナースコールで知らせるよう根気よく説明する
- ナースステーション近くの場所へ部屋替えする
- 夜間の巡視を増やす
などがありますが、どうしてもという時は「離床センサー」を使用することもあるかもしれませんね。
この転倒・転落対策については、はっきり言って看護師の努力がかなり必要ということなんです。
転倒・転落させたくなかったらずっと患者さんに付きっきりになっていればいいだけの話。
でも、現実的にできません。
だから、できるだけ夜間のリスクを減らしたい。
そう考えることは自然なことだと思います。
今は落ち着いているとはいってもポータブルトイレを使用するという新しい試みをきっかけに、患者さんの行動が変化する可能性は十分あるわけです。
そこを「ちはー、ポータブル使わせておくんなまし!」とリハビリ担当者に言われようとも、「あいよ!(・ω・)ノ」と快く返事できないのです。
でも、何事もやってみないと分からない。
そこで出てくるのが、やっぱり「患者や家族の意向」なんですよね。
おしっこに行きたい感覚は分かるのか
おしっこに行きたい!と思う感覚のことを、「尿意(にょうい)」と言います。
この患者さんは果たして尿意を感じているのだろうか…。
その判断をするために、プライマリーナースはまず尿意のある時に尿器で採ってみようと考えました。
現在患者さんはオムツ排泄です。
それを、尿意のあるときにナースコールで知らせてもらい、尿器でおしっこを採る。
オムツは汚れず不快感もない。
とてもいい方法のように思われましたが、問題点が出てきました。
- ナースコールが鳴って看護師が病室に伺うまでの間に、尿意が抑えきれず出てしまうという問題
- 看護師に悪いなと思って気兼ねしてしまう患者さんの気持ちの問題
- 気兼ねするために、いつもと変わらずオムツ内排泄をしてしまう問題
これだけで、尿意があるのがはっきりしました。
しかし、尿意はあるけど間に合わないこと、そして患者さんが遠慮しているということが新たに分かりました。
尿意を我慢できないとなると、ナースコールがなってからポータブルトイレに誘導していたのでは間に合わないことが想像できます。
しかも、そもそも気兼ねしているので、ナースコールさえ押してくれない可能性もあります。
お部屋に行くごとに、「今トイレにいきたい感じはないですか?」と聞いても、「今は大丈夫だよ」とにっこり笑顔。
でも、その2,3分後にナースコール。
結局、ここでも「患者と家族の意向」が焦点になっています。
個別的看護の考え方は難しい
患者さんひとりひとりに合った看護をしていくのは難しい。
リハビリ担当者の思い、看護師の思いもありながら、でも基本的にまず最初に患者さんの思いに寄り添わないといけないということ。
患者さんが思い描くゴールを基本として、できることできないこと、家族の意向も含めて考えていくこと。
時には、患者さんが望まないことを看護師が無理やり勧めることもあったり、でもそれは結果的に患者さんのためになることであったり。
結果はすぐに出るものじゃないので、その時の判断が正しいのかは分からないことも多いのです。
そんなことを考えさせられる、最近のお仕事事情でした。
で、結局この患者さん、リハビリ担当者が家族と本人に意向確認をしている真っ最中でしてまだ結論は出ていないのだとか。
患者さんと家族と周りの環境を考慮して、素敵な看護を提供していきたいなと思います。